血は水より薄かった

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 殺人事件は理由が怨恨であろうがギャングの縄張り争いであろうが、物盗りであろうが心が寒くなる。
 過日、病院で人口透析を受けるべく家を出た年老いた男性が、車を待っている間にピストルで撃たれて死亡する事件がシカゴで発生した。
 事件発生直後、テレビ局のインタビューに答えた近所の住人たちが、「こんな非力な老人を後ろから撃つなんて、一体どんな人間なのだろう」と憤りをアナウンサーにぶつけていた。
 一日経ってこの「どんな人間」が見つかった。これがなんと被害者の孫息子だったのだが、驚くべきはこの孫に殺人を依頼したのが被害者の妻、つまり犯人の血のつながった祖母だったというに至っては言葉もない。
 近所の評判では、被害者は透析を受ける健康状態でも、雪が降れば雪かきをし、夏などは家族のために庭でバーベキューをするなど、仲睦まじい家族に見えたという。
 6発もの銃弾を撃ち込んで祖父を殺した後、祖母と孫は祖父の残した金を持ち出しスポーツカーを買い、刺青をしたり、家具を買ったりと散財をした。
 長年連れ添った夫を孫に殺させる神経も信じられないが、その金を盗んで遊び歩く行為に罪の意識のかけらもない欠陥人間が、一般市民と同じコミュニティーに住んでいること自体恐ろしい。
 人口数百万の大都市、立ち並ぶ住宅の個々の閉じられた扉の向こうにどのようなドラマが隠されているのか知る由もない。水より濃いはずの血のつながりも果たしてどれだけ信じられるものやら…。
 このような例は一般的ではないかもしれないが、必ずしも物質的な貧しさだけで人間が罪を犯すわけではなく、祖父や夫の命より新しいスポーツカーを選ぶ心の貧しい妻や孫がいて、その手に握られていたピストルが不幸の種である。
 スーパーマーケットで買い物をするのと大差なく銃器を買える社会で、「銃こそが善良な市民を守る」と信じる人がいる限り、市民団体や政治家がどれほどガン・コントロールで騒いでみても、銃による犯罪は一向に減りそうにもない。これはアメリカがこれからも長い間苦しまねばならない難病だと思う。【川口加代子】

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