行き場のないテロ容疑者の遺体

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 楽しいはずのスポーツ・イベントが一瞬にして修羅場となったボストン・マラソンのゴール近くの爆破事件からすでに3週間近くなる。
 この事件の根は思いのほかに深いようで、次々と新しい事実が現れてくる。
 兄弟容疑者の一人、逃走中に警官と抗戦し射殺された兄のタメルラン・ツァルナエフの遺体を引き受けたマサチューセッツ州の葬儀社が、その埋葬先に困っている。マサチューセッツ州内はもちろん、近郊のニュージャージー州やコネティカット州の墓地にも問い合わせをし、すべて断られたというのである。
 拒否の理由は、「今日のアメリカを築いた先駆者やわれわれの祖先を埋葬する神聖な土に、われらアメリカ人の精神に反して無辜(むこ)の市民を殺害し、傷つけたテロリストを共に葬るわけにはゆかない」というものらしい。理解できないこともないが、このニュースを読みながらふと思い出したことがある。
 第二次大戦終戦後のシカゴで墓地会社が日系人の埋葬を拒絶し、両親は戦死した兵士である息子を連邦政府の国立墓地に埋葬せねばならなかったという悲しい歴史がある。
 人種差別に加えて、数カ月前までは「敵性外国人」として日本人も日系人もひとからげにして敵視していた国民感情の中で、泣きながら受け入れてくれる墓地を探した日系家族がいたのである。
 この埋葬差別問題が深刻になり、シカゴ日本人共済会はシカゴ地域の墓地会社26社に「日系人の埋葬を受け入れるかどうか」を問い合わせたところ、23社が問い合わせを無視し、返事を寄越した3社のうち2社が埋葬を拒否、ただ1社、戦前に隔離された共同墓地を許可していたモントローズ墓地だけが受け入れてくれたという。
 日系人は、自分たちの二つの母国が敵対したけれど、その苦しみの中でテロ行為などせず静かに耐えていた。それにもかかわらず差別は実在したのである。
 この二つの埋葬拒否の理由は、少し違うかもしれない。いや根底ではつながっているような気がする。【川口加代子】

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