東日本大震災から2年3カ月が経ち、これまで多くの映画人が震災映画を撮り続けてきた。先日ロサンゼルスを訪れた大林宣彦監督もそのひとり。ロサンゼルスでは最新作「この空の花―長岡花火物語」の上映会が行われ、監督自ら登場した。
 映画の舞台、新潟県長岡市は2004年の新潟・福島豪雨、中越地震の被災地。さらに第二次世界大戦中は米軍の攻撃を受け多くの犠牲者がでた場所であり、山本五十六の故郷でもある。
 「白いスクリーンの上に平和を描きたい」。同作で震災、戦争、平和をテーマにメガホンをとった監督は、震災後、被災者たちの姿に目を奪われた。互いに助け合い、世界中から寄せられた支援に感謝し、故郷をさらに良くしようと奮闘する様子から、忘れかけていた「美しい心」を思い出したという。
 これだけのテーマを扱うとなるとドキュメンタリー映画になるだろうと誰もが思うだろう。しかし同作は違った。監督はこの作品を「シネマゲルニカ」と呼んだ。
 ゲルニカはご存知の方も多いピカソの代表作。スペイン内戦時に空爆を受けた町、ゲルニカの様子を描いた作品だ。幼い頃、ゲルニカを前に、なぜこれが戦争の絵なのか理解できなかった。その疑問は今日まで続いていたのだが、監督の話を聞いて腑に落ちた。
 監督の話はこうだった。ピカソはもともと写実派の画家。もしピカソが戦争の惨劇をリアルに描いていたら、「そんな絵は見たくない。戦争を思い出したくない」と言って人々は目を背けてしまうだろう。このようにしてドキュメンタリーは風化していってしまう。だがゲルニカは子どもが描いたような絵。そうした表現だからこそ、だれもが興味を持ち、なぜそんな悲しい顔をしているのか考え、戦争の悲劇が風化されずに残るというのだ。
 震災を忘れないための「シネマゲルニカ」。芸術の表現方法は無限大だ。3月11日は決して風化させてはいけない日。ピカソが残した平和への思いが今につながった気がした。【吉田純子】

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