歌姫と「海ゆかば」

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 YouTubeで圧倒的人気を誇っている「自衛官歌手」がいる。
 年末のNHK紅白歌合戦に出るのではないのか、とまで言われたが、それはなかった。海上自衛隊東京音楽隊所属唯一のボーカリスト、三宅由佳莉・三等海曹(27)だ。
 きりりと軍服に身を包み、透明感溢れるソプラノで歌うのは、「祈り—A Prayer」(作詞・作曲は東京音楽隊隊長、河邊一彦二等海佐)。
 東日本大震災で親、兄弟を失った子供たちのことを思い、慰め、励ますために作られた楽曲だ。歌い始めたとき、子供たちのことを思い、涙が止まらず、歌えなくなったこともあったらしい。
 動画がアップロードされるや、メディアでも取り上げられ、その後プロ野球やラグビーの親善試合などの開会式にお声がかかり、国歌を独唱している。いまや「美しすぎる海上自衛隊の歌姫」(ライブドア・サイト)として引っ張りだこだ。昨夏にはCDデビューしている。
 三宅海曹は、岡山県倉敷出身。県立高校を出て日本大学芸術学部音楽学科声楽コースを卒業。大手デパートへの就職も内定し、夢みていたミュージカル女優の道をあきらめかけていた。そんな時、たまたま海上自衛隊音楽隊がボーカリスト第1号を募集しているのを知り、歌が歌えるならと入隊した。普通の新兵たちと一緒に5カ月の軍事訓練も受けた。そのあと、音楽隊に配属され、今や「歌声で国防の一翼を担っている」(河邊隊長)。
 「軍人歌手」で思い出すのは、中国の習近平・総書記夫人、麗媛さん(51)だ。こちらは中国人民解放軍総政治局歌舞団団長、軍の肩書きは少将だ。兵士の士気高揚を高める勇ましい軍歌しか歌わない。
 三宅海曹はもっぱらクラシックやポピュラーソングばかり。せっかく海上自衛隊にいるのだから、聞くたびにじーんとくる「海ゆかば」(作詞・大伴家持、作曲・信時潔)ぐらい歌ってほしい気もする。
 防衛省OBの友人にそう言ったら、「とんでもない。軍歌はご法度、ご法度」とたしなめられた。海上自衛隊はかっての帝国海軍ではないというのだ。【高濱 賛】

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