仲代達矢さんの規範を超える魅力

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 「これは『なかよ』と読むのか、それとも『なかしろ』か。どっちだ」と、映画撮影のオーディションに参加した19歳の仲代達矢さんに、はじめて面通しをした黒澤明監督が唐突に聞いたそうです。
 仲代さんは、「なかだい、であります」と答えましたが、黒澤監督の返答は、「それじゃあ、重箱読み(じゅうばこよみ)じゃないか。『なかよ』か、『なかしろ』のどっちかにしろ」と言われたそうです。この無茶苦茶な会話の後で仲代さんが手にしたのが、映画『七人の侍』への出演でした。(『未完。仲代達矢』より)
 重箱読みとは、日本語における熟語の変則的な読み方の一つです。語の上の字を音として、下の字を訓として読むまさに「重箱」(ジュウばこ)のような熟語の読みの総称です。
 原則として規範的な読み方ではないとされますが、和語と漢語が結合した混種語は日常語として深く浸透しており、慣用になっているものも少なくないようです。もちろん本名ですから、仲代さんに読み方への何の責任もありませんが、それを黒澤監督に言わしめた、規範を超えた魅力や雰囲気があったのだと思われます。
 仲代さんのはじめての映画出演は、ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞や、アカデミー賞の美術賞、衣裳デザイン賞を受賞し、ジョージ・ルーカス監督などさまざまな映画監督にも影響を与えましたが、仲代さんの出演はただ通り過ぎる役のたった4秒で、エンドロールに名前も無かったそうです。そこから『黒い河』、『人間の条件』の名作に出演。黒澤監督の代表作『用心棒』や、『椿三十郎』、『天国と地獄』、『影武者』、『乱』などにも出演し、出演映画は世界の三大映画祭すべてで受賞しました。
 孔子は、『70にして心の欲する所に従う』と言ったそうですが、仲代さんは80を超えて、さらに規範を超えて心の赴くままに自分を表現しようとしています。あるがままの生き様を見せ続け、挑戦し続ける精神に学びたいと思います。
【朝倉巨瑞】

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