桜への思い

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 初めての大阪・天満橋の桜見物は、地下鉄から地上へ出ると目の前に大きな河が広がり、対岸の木々の緑に映えたピンクの桜が延々と河岸に沿って続いていた。背景には高層ビルが連なり、河にはさまざまな観光船が行き交い絵のようだ。こちらの河岸には乗降客で賑わう観光船の乗り場があり、橋を渡って対岸の桜道に降りるとそこはもう大勢の花見客。親子連れで、恋人同士で、会社の同僚から運動部の仲間など。しみじみと桜を眺める人もビール片手に笑い興じる人も。
 先週は東京・北の丸公園の桜を見たのだが、明らかに雰囲気が違う。大阪はぐっと開放的というか庶民的なのだ。屋台が並び、焼きそば、タコ焼き、おでんにホットドッグ、横にずらっと炭火七輪をしつらえた席を設け、殻つき牡蛎、魚などを焼かせる店や金魚すくいまで出ている。自前のBBQセットを持込む人も多く、タコ焼き器まであったのはさすが大阪。
 翌日は新幹線で名古屋城へ。堀跡に巡らされた桜の大樹は、折からの風に花びらが雪のように吹き上がり舞い散る。若草の緑と桜、枝越しに輝く天守閣の金色のシャチが美しい。名古屋では1千本のしだれ桜で有名な東谷山フルーツパークも訪れた。
 園内はウメ・アンズ・スモモ・ナシ・リンゴ・柿などさまざまなフルーツが植えられ、県内の果樹農業の振興が目的。満開のしだれ桜にテレビ局の生中継もあり、快晴に恵まれ穏やかな気温で絶好のお花見日和、大勢の見物客で賑わっていた。
 東京に帰ると桜は盛りを過ぎ、桜前線はもう東北に向かっている。日本中が開花を待ち、桜に酔い、名残の桜を惜しむ。
 「敷島の大和心を人問はば、朝日に匂ふ山桜花」(本居宣長)、「願わくば、花の下にて春死なん、その如月の望月の頃」(西行)のうたに表されるように、昔から桜は日本人の心に響く特別の花だった。ただ美しいのではない。華やかにも凛として咲き、潔く儚くパッと散る。人々はその春の桜を待って冬を耐え、一瞬の桜花を楽しんで明日からの労働に戻る。辛いことや苦しいことがあれど、翌年はまた確実に花の季節はやってきて希望を胸に蘇らせてくれるのだ。
【若尾龍彦】

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