被災地から招かれた伊藤健人さんとピクニック参加者(左)
ピクニック参加者と被災地から招かれた伊藤健人さん(左)

南加宮城県人会(米澤義人会長)はさきごろ、毎年恒例のピクニックをモントレーパークのジョージ・エルダー公園で行った。晴天に恵まれたこの日、親子3世代のメンバー、県にゆかりのある人など、およそ100人が集合。その中でも、今回、日本から招かれた一人の青年の存在はこのピクニックをより実りあるものにした。【中西奈緒、写真も】

米澤会長は「待ちに待った年に1回のピクニック、怪我をしないように元気いっぱい楽しみましょう!」などとあいさつ。日本語が分からない若いメンバーにもきちんと伝わるように、英語にも通訳されて会が始まった。

まず、東北地方のズーズー弁による掛け声で全員がラジオ体操。その後、会員それぞれが持ち寄った手作りの食事、ドーナツ食い競争やスイカ割りなどのゲームの数々を通じて、世代を超えた笑顔の絶えない交流が今年も続いた。また、東北三大祭りの一つとして有名な仙台七夕祭りの伝統を受け継いで、米澤会長が中心となって活動している「ロサンゼルス七夕まつり」の七夕飾りも会場に飾られて、楽しいピクニックの風景に花を添えた。

一般的に、毎年行われる県人会の催しというものは、参加者にとっては特に「目新しさ」はないともいえる。今のメンバーを維持していくこと、新しいメンバーに興味を持ってもらうことは簡単なことではない。一方で、そこを乗り越えなくては日系社会の高齢化や世代間のギャップが引き金となって、県人会活動はいずれ形骸化し、消滅の危機に直面することもあるかもしれない。

そうした意識が作用したのか、今年の宮城県人会ピクニックはいつもと一味違ったものとなったようだ。東日本大震災の津波で家族4人を亡くした被災地の青年が招かれ、ピクニックの参加者と交流を深めたのだ。これまで17万ドル以上の震災義援金を集めて宮城県に寄付してきた南加宮城県人会だが、被災した人にピクニックに参加してもらうのは初めてのことだ。

ピクニック参加者と語り合う伊藤健人さん(左)
ピクニック参加者と語り合う伊藤健人さん(左)

参加したのは伊藤健人さん(21)。宮城県東松島市大曲浜の出身で、母と弟、祖父母の4人を津波で一気に失い、家も津波にのまれてしまった。彼は弟が大切にしていた鯉のぼりを偶然泥の中から見つけたことをきっかけにして、この震災が風化していかないよう伝えていく「青い鯉のぼりプロジェクト」を立ち上げた。全国からいらなくなった鯉のぼりを託してもらって掲げ、津波の犠牲になった子供たちの魂を鎮め、生き残った人たちの絆を深めつつ、ふるさとの再生を願うプロジェクトだ。

伊藤さんは県人会のメンバーと一緒に食事をしながら、3年前の地震の様子や現在の復興状況などを語った。「町の復興は進んでいるけれども、大震災の記憶や印象が月日とともに薄れ、風化してきている。それを止めていくためには海外の人たちからの視点は大切」とも述べた。真剣に耳を傾けていた参加者は「これからは楽しいことがいっぱいあるから、一時いっときを無駄にしないで生き抜いてほしい。そして、悲惨な津波の経験者として命の大切さを伝え続けてほしい」などという言葉を彼に送っていた。

伊藤さん(左)と米澤会長(左)
伊藤さん(左)と米澤会長(左)

「伊藤さんの話を聞かせてもらって、これからも義援金活動など、県人会として宮城県をサポートし続けたいとあらためて感じた」と話す米澤会長は現在、宮城、福島、岩手の被災3県人会のリーダーとして初めて、9月14日の南加県人会協議会創立50周年記念祝賀式典で流すDVDを作成している。これは、今まで多くの人たちが義援金集めに協力してくれたことに感謝を示し、これからも引き続き協力を依頼することを目的としている。そのDVDでは被災3県の知事のメッセージと、震災発生から現在に至るまでの各県の復興状況を映像とともに報告することになっていて、今後一人でも多くの人に見てもらう機会をつくっていくという。

七夕飾りと「青い鯉のぼりプロジェクト」の鯉のぼり
七夕飾りと「青い鯉のぼりプロジェクト」の鯉のぼり

月日の経過とともに、日本国内で風化が懸念される震災やその被害。日本から5500マイルも離れているロサンゼルスの県人会だからこそできるサポー トがあり、これが今後より大切になっていくのかもしれない。また、今までの地道な活動とともに、新しい取り組みへの挑戦が、母国日本との絆をさらに深め、県人会の若い世代を引き付け、あらためて県人会の意義を見出すきっかけを日系社会にもたらしてくれるのではないだろうか。

盛況に終わった南加宮城県人会ピクニック
盛況に終わった南加宮城県人会ピクニック

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