ビジネスワイド:世界中の食通をうならす【上】

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世界中から食通が訪れるカリフォルニア料理レストラン「スパゴ」本店で総料理長を務める矢作さん

世界中から食通が訪れるカリフォルニア料理レストラン「スパゴ」本店で総料理長を務める矢作さん

 

「スパゴ」ビバリーヒルズ本店総料理長
矢作哲郎さん  【上】

 「アメリカ料理を変えた料理人」と呼ばれ、アカデミー賞公式シェフとしても活躍するウルフギャング・パック氏が経営するカリフォルニア料理レストラン「スパゴ」。そのビバリーヒルズにある本店で総料理長を務めるひとりの日本人シェフがいる。矢作哲郎さんだ。世界各国に展開する同店の本店で選りすぐりのシェフ50人を束ね、「和」と「洋」を融合させた料理で世界中の食通をうならせている。矢作さんにパック氏との出会いから憧れの米国行き、そして夢の実現について語ってもらった。【取材=吉田純子】

運命を変えた1冊
将来を決めた転機

 高級日本茶「八女茶」の産地としても名高い福岡県八女市で矢作さんは生まれた。実家が旅館だったこともあり、子供時代は海の幸、山の幸を食べる機会が多かったという。12歳の時に父親の仕事の関係でロサンゼルスに引っ越し、中学、高校と当地で過ごした。
 高校卒業と同時に日本への帰国が決まっていた。将来を考える年頃。特にしたいこともなく、大学進学にも惹かれない。そんな時たまたま立ち寄った本屋で出会ったのがウルフギャング・パック氏の料理本「アドベンチャーズ・イン・ザ・キッチン」だった。
 パック氏はオーストリア生まれの料理人で「カリフォルニア料理の先駆者」とも呼ばれる人物。パリにある高級フランス料理店「マキシム」など世界の名だたる3つ星レストランで修業した後、ロサンゼルスで「スパゴ」をオープンした。
 中学生頃からロサンゼルスの本屋で世界の料理本をみるのが好きだった矢作さん。本屋に座り込み、1日中料理の本を見ていることもしばしば。しかしこの本を開いた瞬間、衝撃が走った。「まだ料理のことなど分からない子供なのに、『この人全然違う』と思った」。そこにはフランス料理でありながら和の食材を取り入れた料理がカラーで紹介されていた。今でこそ和食を取り入れた創作フレンチはよくあるが、当時としては斬新。「こういうことする人がいるのか。これは面白い」と体中に電流が走った。パック氏の本との出会いが矢作さんの将来を決める大きな転機となった。

「この人の店に行きたい」
初めて会うパック氏

 「この人の店に行きたい」。日本への帰国が間近に迫ったある日、両親を説得して当時ハリウッドにあったスパゴへ連れて行ってもらった。その時初めてパック氏と会った。本にサインしてもらい、一緒に写真も撮った。初めて食べるパック氏の料理には 衝撃を受けた。「和食でも中華でもなく、フレンチだがいろんな国の要素が取り入れられている。こういう仕事がしたい!」矢作さんの夢は決まった。日本帰国後、辻調理士専門学校に入学。パック氏もフランス料理から始めたことから「僕もフレンチをやろう」とフランス料理学科に進んだ。
 同校はフランスにも姉妹校があり、1年間本場フランスで修業。しかしフランスにいた頃は文化や伝統を学ぶことに必死でカリフォルニア料理のことはすっかり忘れていた。だがひょんなことからパック氏と再会することになる。パック氏の系列店が日本にもオープンすることになり、矢作さんが呼ばれたのだ。「またカリフォルニア料理をやりたい。その話が舞い込んできた時、かつての思いが甦りました」
 「偶然ではあるけど、彼が日本に来ることに興味をもっていたから、周りの人が声をかけてくれたんだと思います。親父さん(パック氏)の本との最初の出会いがなかったら今はない。すべての出会いは本屋からはじまりました」。パック氏と撮った写真は今も大切にとってある。
 副料理長になった時、パック氏に当時のことを覚えているか聞いてみたことがある。「『覚えてるよ』と言ってたけど、ぜったいうそです(笑)」

絶大な信頼寄せる
日本食に影響を受けたパック氏
「和洋両方を表現できるシェフ」

 パック氏は矢作さんに絶大な信頼を寄せる。パック氏は矢作さんをこう表現する「和洋、両方の味覚を理解し表現できるシェフ」。
 パック氏も日本食に影響を受けたひとりだ。初めて日本食と出会ったのは、ロサンゼルスの小東京の寿司店。今はもうないその店で初めて寿司を食べた時に衝撃を受け、以来日本食が好きなのだという。日本人シェフがもつ繊細さに魅了され、「日本食はクリーン、シンプル、美しい」と絶賛する。
 パック氏はフランス料理店でピザを出したことで有名になった。古典的なフランス料理を勉強し、数々の有名店で料理長を務めていた同氏だったが、周囲の反発を押し切りフランス料理店でピザを出したところ、ヒットした。
 中華料理店も経営しているが、その時も急にひらめいたように「今度は中華料理をやる」と言い出した。当初フライドライス(炒飯)を揚げた米だと本気で思っていたというから驚きだ。「ここまで会社を大きくし、成功する人は発想が違う。ネジがどこか4つくらい無いぐらいでないとできないと思う。普通の考え方ではここまでにはならないと思います」と矢作さんは語る。【後編に続く】

和の要素がつまった「スパゴ」定番の一品。ツナのタルタル、味噌とごまコーンカップ

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