「ヤマト魂」に学ぶ

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 江戸時代、長沢鼎(ながさわ かなえ)は、藩命で英国留学生としてイギリスに留学するために、13歳で薩摩の国を旅立ちました。長沢はグラマースクールから勉学に励み、コーネル大学やニューヨークでワイン醸造を学びました。その後にカリフォルニアに渡ることになります。サンタローザで開いたワイナリーを買い取った長沢は品質向上に熱心で、カリフォルニア大学デービス校の教授に醸造技術を学ぶなど研究を続け、高級ワインに育て上げました。そして、「カリフォルニアのワイン王」や「葡萄王」、と呼ばれるようになるのです。
 この壮大な物語を描いた「評伝長沢鼎―カリフォルニア・ワインに生きた薩摩の士」を書いた作家の渡辺正清氏の突然の訃報が届きました。渡辺氏は、石川県の出身ですが、小田原や岡崎で育ちました。私が名古屋出身であることを告げると、親近感のある口ぶりで、私も愛知県には縁があると言って微笑みました。
 渡辺氏の取材方法は、独自で緻密でした。ひとつの事象を文章にするにも、歴史的背景が正しいのかを徹底的に調べ上げて文章にしていきました。私が編集をしていた情報誌でもうるさいほどに文字の訂正や、改行などを指示されました。原稿を提出してから何度もやり取りがあるのです。その度に訂正を繰り返して、やっと納得のするページに仕上がっていきました。彼のこだわりが、結局はこの雑誌の人気コーナーになりました。病気で手術をしたときにも、推敲が重ねられた原稿が送られてきたのです。遺稿となった原稿が送られてきたのは、亡くなる2日前でした。個人的には私の第二の故郷である鹿児島の芋焼酎を酌み交わしながら、もっともっと話を聞きたかったと悔やんでいます。
 渡辺氏が作品に書いてきたのは、異国の地で苦難に立ち向かう時に触れる「ヤマト魂」でした。アメリカに生きる私たちは、時として苦難に立った時、彼の天国からの魂の声に、これからも学び支えられることは間違いないと思います。黙祷【朝倉巨瑞】

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