敬老引退者ホームの居住者の1人であり、理事(ボードメンバー)でもある高瀬隼彦さん(85)が敬老売却に反対を表明している。高瀬さんは、現在28人いる敬老の理事のうち、数少ない「新1世」のメンバーにあたる。【中西奈緒、モニエ中地美亜】

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敬老引退者ホームの理事を務める、高瀬隼彦氏
敬老引退者ホームの理事を務める、高瀬隼彦氏
 高瀬さんは南加日商の会頭をつとめていた2000年頃から、敬老の創立理念に共鳴し社会貢献の一環として敬老引退者ホーム理事を引き受けた。そのとき以来、毎回理事会に参加し、さまざまなことを決める際の発言権・投票権を持っている。

 高瀬さんは渡米後50年の間、鹿島建設の建築家として小東京の鹿島ビル、ダブルツリー・ヒルトン、都ホテル、武道館のなどの建築計画に携わり、いままで日系社会に大きく貢献してきた。

 4年ほど前には、敬老施設の増築や改築の件などでいろいろと相談を受け、また、奥さんの純子さん(78)も鹿島建設でインテリアデザインの仕事をしていたことから、直接敬老に関わることもあったという。

 当時、ロサンゼルス近郊ウッドランドヒルズに住んでいた高瀬夫妻は昨年の8月に、2人でこの敬老引退者ホームに入居した。入居待ちをしていた5年の間に、日米の資財や先祖の墓などを処分して「やっと一生過ごせる安住の場所を得た」と喜んで入居し、遠くニュージャージー州に住む子どもや孫からの「ここなら安心して両親を託せる」という意見も後押ししたのだという。

 しかし、奥さんの純子さんは入居する際に、敬老が売りに出されることを聞かされてなかったことから、今回の話にはとても驚いたという。高瀬さんは理事として毎回理事会に参加していたが「売却が決まるすぐ前は話に出ていたけれど、理事会に出ていてもそんなに細かいことまでは聞かされていた覚えはない。賛成ではなかったけれど、仕方がないと思ってしまった。しかし、今は反対している」と胸の内を話してくれた。

 また、高瀬さんは今回の売却について「これからは、大事な親を託せる敬老のような施設が3世、4世の世代にはもう必要ない、という判断からだとすれば、あまりにも無責任な決断ではないか。本当に日系人の手を離れてしまったらどうなるのだろうか、他の会社と合併するとかほかの選択はないのだろうか」と話す。純子さんも「今回の売却は再考が必要であると思う」と話し、「敬老を守る会」の見解にも賛同して署名にサインしている。

 高瀬さんは高齢によって、今までこの敬老売却に関して理事会でどんなことが議論され、自分がどんな発言をし、自分がもつ権利をどのように行使したかを具体的に思いだすことができないが、今ははっきりと売却に反対している。その声を届けたいということで今回、筆者との面会を希望してくれた。

 「これは彼なりのアクションなのです」と純子さんが話していたのが、とても印象的だった。

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