設立以来34年を迎える幼児と両親のための日本文化サークル「タンポポ会」も今学期最後のクラスで教室は子供たちの笑い声や走り回る騒音で膨れ上がっていた。
 このグループはゼロ歳から5歳までを対象にしているが、公立校はすでに夏休みに入っているため、今日は「タンポポ会」の卒業生が何人か混じっている。
 今日でこの子供たちとも2カ月ほどお別れだな、と思ってみていると、1人の少年が近付いてきて、突然「僕、誰だかわかる?」いたずらっぽい笑顔で話しかけてきた。
 背丈が私の胸あたりまである。大きなクリッとした眼に覚えはあるが、名前は思い出せない。
 「ごめん、誰だっけ?」
 「ドミニックだよ!」
 いたずらっ子でそのくせシャイだったドミニックは、しばらく会わないうちに見違えるほど背が伸びて今は7歳だという。私が思い出せなかったことがうれしいらしく、両手を出すと腕の中に飛び込んできた。
 先生でもアシスタントでもないけれど、カルチャープログラムの一環として私の担当の中に入るので、必要なときに雑用をしたり、おせっかいをやいているうちに、みんな可愛くて自分の子供か孫のような気持ちになってくる。
 横では1年3カ月になるちーちゃんが大人の指に掴まって歩き回っている。この間まで、「這わない、歩かない」と心配していた母親の表情が明るい。ここ1カ月ほどの間に心身共に発育がめざましい。
 大きくなったねと驚きながら、自分の衰えはしばらく考えないことにする。いかに寿命が延びているとはいえ、人生も峠を越えると下り坂、心身の衰えも早いが、普通は老いが一夜でやってこないところがうまくできている。
 一晩で黒髪が白髪になるわけでもなく、紅顔がしわだらけになるわけでもない。少しずつ、少しずつ…そして気がつけば年相応の白髪になり、顔つきになっている。そのあたりが神様の芸の細かいところ(?)である。
 さあ9月にはこの子たちの何人かは幼稚園に進み、残りの子供たちが一回り大きくなって戻ってくる。
 そして私は、また少し老いていることだろう。【川口加代子】

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