バス停の15分

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 通勤の路順を変えてみた。バス1本で行くよりも、電車で2駅行ってバスに乗り換えるほうが歩く距離が短くて速く着くことに気が付いたからだが、今日は電車の駅を出たところで、バスが止まっているのに気が付いたが広い通りを渡らねばならず、間に合わなかった。
 次のバスまで8分から15分待つことを覚悟した。
 この辺りは、近くにシティ・カレッジはあるがゴタゴタ小さなファーストフードの店や雑貨店などが軒を並べ、決して環境が良いとは言いかねるが、さほど危険とも思えない。ホームレスなのか仕事には就いていないような男が3人タバコを吸いながらたむろしている。そこへ彼らとは何の関係も無さそうな若い女性がゆっくり歩いてきて、タバコを吸っている男の目の前に手を突き出した。「アレッ」と思ってみていると、男は自分の口からタバコを抜き取りヒョイと女性に渡すと、彼女は慣れた手つきで受けとり、軽く一息吸い込むと礼もいわずに去ってゆく。
 まるで何度もリハーサルをした後の、ぴったり呼吸の合ったステージプレイを観ているようだ。
 まだバスは来ない。
 今度は反対側からジーンズの裾を引きずりながら、行過ぎる人に1人ずつ「1ドル持ってるならくれないか」と乞いながら男が歩いてくる。
 「そのタバコでもいいんだぜ」。先ほど女性に吸いかけのタバコを渡した男たちは3人とも彼を無視した。私は心の中で反応の違いに笑いがこみ上げてきた。
 まだバスは来ない。
 次はきちんとした身なりの若い男がバス停の前の店に入ろうとして咥えていたタバコを火の付いたまま路上に捨てた。
 マナーが悪いなと思って見ていると、私の視線に気が付いた男は目をそらして店内に入った。よほど靴で踏んで消そうかと思ったが、いずれ消えるだろうと知らん顔していると、件の男が店から出てきて捨てたタバコをじっと見ている。
 きっと気が引けてタバコの火を消すのだろうと思ったら、サッと屈んでまだ火の気の残ったタバコを拾い上げ、再び吸いながら去って行った。
 思わず「まさか…」と声を出しそうになったところで、バスが来た。【川口加代子】

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