長いお別れ

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 近くの市民公会堂の上映会で「長いお別れ」を見た。最近、シニア向けに公共施設を活用した割引の上映会が盛んだが、会場の9割は女性の高齢者が占める。
 本作は教育者だった父が認知症を患い次第に壊れてゆく過程で、その父を妻・2人の娘と孫が支えてゆく物語である。認知症は人が年齢を重ねるに従い、体が衰え脳細胞が萎縮し記憶力が減少する病気である。以前は「痴呆症」と呼ばれたが、2004年に厚生労働省は病名を「認知症」に変えた。以前は人の平均寿命も短く、そうなる前に亡くなる人が多かった。認知症は平均寿命の伸びと共に増え続ける。高齢化で団塊の世代が75歳を超え、認知症患者の急増が予想される。辛いことも多い人生の終わりにそれらを忘れ去ってゆくのは、逆に天から与えられた恵みだと言う人もいる。
 映画のテーマは「食」と家族の繋がり。キリスト教でも仏教でも食を共にするのは絆を強める大切な要素として教えや儀式に取り入れられている。繰り返し出てくる「食卓を囲む家族」は全編を貫く重要なテーマだ。今まで一家を支え養ってきた父親が、年と共に次第に衰え記憶力を失ってゆく。なんとかしようと必死に努力する妻や娘や孫たち、途中で出会った少女たちと幼かった娘たちが重なり、夕暮れのメリーゴーランドに乗って廻る父親。「お父さんが帰ってきたよ!」。その入り口には娘たちを迎えに持ってきた雨傘が3本下がっていた。
 駐在員の妻として海外で暮らす長女は、日本の認知症の父を気遣い、論理思考の夫と噛み合わない生活が続く。そんな両親のもと、一人息子は次第に不登校に陥ってゆく。ある日そんな高校生の息子を校長が部屋に呼び「なんでもいいから君のことを話してごらんと」と問いかけた。息子はおじいちゃんの認知症を話す。「知ってるかい。認知症は長いお別れともいうんだよ。長い長い時間をかけ少しずつ家族に別れを告げてゆくんだ」。映画を見終わって校長の言葉が胸に残った。我々が頭で記憶していることの方が不確かで、心で記憶していることの方が確かなのではないか?という作者の問いかけが胸に焼きついた。【若尾龍彦】

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