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幻の聖火最終ランナー

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 東京五輪は1年延期となった。2年前のこの欄で「64年東京五輪開会式での出来事」を書いた。戦後まだ19年ばかりの日本が戦禍からの復興を世界に示したスポーツの祭典、その聖火リレーで聖火台に点火する最終走者に選ばれたのが広島で原爆が投下された日に生まれて育った坂井義則さんだった。故に彼はその時19歳。
 彼が聖火を掲げて国立競技場に入ってきた時に起きた出来事、整列していた各国の競技者が一斉に列を離れて走行中の坂井選手の元へ群がって駆け寄り写真を撮った。お互いに譲り合いながら。原爆の惨禍の中に生まれながら立派に成長して最終走者に選ばれた坂井選手にみな感動して撮りたかったという。各国選手たちも同世代の若者が多かった。その坂井選手は来年の東京五輪を待たず6年前に69歳で亡くなっている。
 ところでその56年前の坂井選手には控え選手がいた。当時高校2年の17歳だった落合三泰さん、今は群馬県に住む73歳。彼は坂井選手の控えとして一緒に練習を続け、開会式当日は坂井さんのそばで待機し、最終聖火を受け継いだ坂井さんが国立競技場に入る所まで後を追って走った。そこからはスタンド下へ移動して坂井さんの聖火台への点火を見た。言葉にならない感動があったという。しかし控えとして幻の最終ランナーとなった。
 落合さんは東京五輪の年の高校総体5種競技で2位となった程の競技者で、その後早大に進み坂井さんの2年後輩となっている。大学2年の時には日本選手権10種競技で優勝している。
 さて昨年6月に2020東京五輪・パラリンピックの聖火リレーのルートが発表された。落合さんは64年の五輪でのあの感動を今度は本当の聖火ランナーとなって確かめたいと聖火走者の募集に応募した。今度こそ走れたらいいなと毎朝の散歩に300メートルの上り坂のジョギングを加えたという。そして喜ばしくも走者の一人として選ばれたそうだ。さぞうれしいことだろう。落合さんは長年の思いを込めて走りたいと聖火リレーの日を待ち望んでいる。いい話だと思う。よかったですね、と祝福してさし上げたい。【半田俊夫】

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