ドキュメンタリーシリーズ「Asian Americans」は11日よりPBS放送で封切られる
 PBS放送は5部構成のドキュメンタリー「ASIAN AMERICANS」を11、12日にプレミア放送する。個人の生涯や歴史を通してアジア系米国人が米国に与えた影響と、これからの社会や文化への作用を探る。

 アジア系米国人の経験に関する最も包括的なドキュメンタリーで、初期の移民から今日の問題や課題、実在の人々とその家族のストーリーを紹介する。ダニエル・ダエ・キムとタムリン・トミタがナレーションを務める。
 中国人排除法や第二次世界大戦中の日系米国人の抑留など、アジア系米国人の重要な節目に焦点を当てるほか、多様で複雑な、アジア系米国人のあまり知られていない経験に新鮮な光を当てる。
 放送封切りの予定(太平洋時間)は以下の通り。視聴には住まいの地域のPBS地上波やケーブルテレビのプログラミングを確認するとよい。
 11日午後5時「Breaking Ground」
反アジア法にもかかわらず、中国、インド、日本、フィリピンなどからの新しい移民がいかにして鉄道を築き、米国最高裁判所と平等を争ったかを描く。
 11日午後6時「A Question of Loyalty」
 両親の故郷であるアジアと米国にまたがる米国生まれの世代が第二次世界大戦中に忠誠心を問われ、家族が収容所に収監される一方で兄弟が戦線の反対側にいた。
 12日午後5時「Good Americans」
 冷戦時代にアジア系米国人がマイノリティーの模範と称賛されたと同時に、永遠の外国人として標的にされた事例を学ぶ。それはまた、アジア系米国人が大胆な野心で政治を志向した時期でもある。
 12日午後6時「Generation Rising」
 大学や、文化において平等を求める若い世代の戦いを追い、アジア系米国人という新しいアイデンティティーについて迫る。新しい移民と戦争難民は、アジア系米国人の人口を増やし、その定義を拡大した。
 12日午後7時「Breaking Through」
 西暦2000年ごろから、アジア系米国人は人口増加と影響力の拡大によって力を増してきた。ますます二極化する米国社会の中で米国人であることが何を意味するのかを考える。

アジア系9人が意見述べる
差別やヘイトなど提起
FB上でタウンホールミーティング

 番組のプレミア上映に先駆け、4月30日に、番組のプロデューサーやアジア系米国人の問題に詳しい関係者9人をパネリストに集めて、フェイスブック上で意見交換会が開催された。
 モデレーターのアムナ・ナワズさんは、「2020年は国勢調査や大統領選があり、初めてアジア人の大統領候補が民主党討論会でディベートをするなど、歴史的な年になるはずだったが、コロナウイルスが全てを変えてしまった。今は別の意味でアジア系米国人について話し合う必要がある」と口火を切った。開会の辞を述べたCAPAC(アジア・太平洋諸島系米国人議員連盟)のジュディー・チュー議員は、新型コロナウイルスがきっかけで、中国系とアジア系の米国人が差別やヘイトの対象になって被害を受けていることを憂慮し、CAPACに所属する議員がアジア系米国人擁護の活動で闘っていることを強調した。
 5部作の番組の一つは、1982年に起こったビンセント・チン事件とアジア系米国人の人権運動に焦点を当てている。ライターのビエト・タン・ニュエンさんは、アジア系の人々が大きなショックを受けたのは、「それが耳新しい事件だったからではなく、暗い過去を思い出させる事件だったからだ」と話す。
 続いてジャーナリストでアクティビストのヘレン・ジアさんは、「1882年の米国で中国人を殺しても1ドルの罰金を払えば刑を逃れることが出来た。100年後の1982年のデトロイトの事件では、3000ドルの罰金を払えば刑を逃れることが許された。これは正義ではないが、82年当時は、まだアジア系米国人の人権擁護団体などもない時代だった」と語った。
 番組は、事件をきっかけにアジア系米国人の人権運動が高まり、黒人人権リーダーのジェシー・ジャクソンをはじめ、あらゆるマイノリティーの人権団体が一緒に立ち上がった当時の様子を伝える。

意見を述べるタウンホールミーティングの参加者。左上から時計回りモデレーターのアムナ・ナワズさん。フォード財団のダレン・ウォーカーさん、アクティビストのヘレン・ジアさん、ライターのビエト・タン・ニュエンさん
 自動車不況による長期の失業で社会が荒れ果て、怒りの矛先が台頭する日本車に向けられ、日本人が憎まれた80年代初頭のデトロイト。新型コロナウイルスの非常事態で大量の失業者が出て、経済の先行きも分からない今の米国の状況が酷似している。怒りのはけ口が中国人に向けられている。
 38年前の事件を知らない若いアジア系米国人が、生まれて初めて、しかも突然に人種差別の攻撃を受けて、戸惑っている状況がある。ハワイに住むジャーナリスト志望の学生、ケイ・ナカムラさんは、「SNSでアジア人に対する攻撃が盛んだが、ハワイは本土と違い、まだこの事態に気付いていない若者もいる。どのように啓発していったらよいか」という大事な質問をパネリストに投げかけた。
 ニュエンさんは「残念ながら米国には19世紀から常に人種差別があった。ここ最近の20年、アジア系に対する偏見が穏やかな時代に生まれた人や、新しく移民してきた人は、人種差別に気がつかなかったかもしれない。だが、過去を知り、その話を人々に伝えていくことが大事。 アジア系にだけでなく、すべての人の社会的正義、経済的正義、人種的正義について、伝えていくことが大事だ」と答えた。
 時代は繰り返すという。だが、過去と現在と大きく違う点は、「82年当時に100万人程度だったアジア系米国人が、今は2000万人いる」、とジアさん。「私たちは昔と違って、声を持っている」
 また、白人至上主義の前ではどんな人種の人々も、攻撃の対象にされてしまう。アジア系米国人は、自分たちは特別だと孤立するのではなく、すべての人の人権のために声を合わせて行くことが重要だと強調した。
 ドキュメンタリー・シリーズ「ASIAN AMERICANS」は、現在の新型コロナウイルス感染症流行による非常事態や、アジア系米国人が置かれている状況を見込んで制作されたわけではない。だが、くしくもこのタイミングで、米国におけるアジア系米国人が置かれてきた状況を再認識するための重要な機会を提供する放映である。
 このタウンホールミーティングでは、他にもフォード財団のダレン・ウォーカーさん、声で出演のタムリン・トミタさん、コメディアンのハリ・コンダボルさん、番組プロデューサーのレネ・タジマ・ペニャさん、エグセクティブディレクターのナオミ・タクヤン・アンダーウッドさんなどがパネルとして意見を述べた。その様子はフェイスブックのビデオ録画で視聴することができる。
www.facebook.com/watch/live/?v=636404333882915&ref=watch_permalink
【長井智子】

Leave a comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *