【写真左】石を入れた靴下で殴打され大けがを負った那須さん【同右】那須さんが襲撃された様子を収めた監視カメラの画像
 ワシントン州シアトルで起きたヘイト事件で那須さんが大けがをした様子は、監視カメラの映像に収められており、最近、全米各地で報告されているアジア系米国人襲撃事件として大きな話題を呼んでいる。被害者のためには支援サイトが開設された。

 那須紀子さんは、2月25日にシアトルのインターナショナル・ディストリクトで男に襲われた。石を入れた靴下で殴打され鼻を骨折し、歯が折れ、打撲や脳震盪を起こす大けがを負った。また、一緒にいたマーク・ポッフェンバーガーさんも負傷した。この事件は、現在、人種差別による襲撃事件として捜査されている。
 那須さんは日本語教師で、子を持つ母であり、また写真家としても活動するが、今回のけがにより保険適用外となる高額な歯科治療を含め、回復までの長い道のりに直面している。
 「私も日系人として、アジア人に対する暴力の増加に心を痛めている」と言うのは、那須さんの支援サイトを立ち上げたクリスティーナ・デレオさん。デレオさんは息子が通うボセル高校で日本語教師をしているチカコ・ミセナーさんと一緒に、同じノースショア学区のイングルムーア校で教えている那須さんのために募金活動を開始した。同支援サイトの収益は、全て那須さんの治療費などに充てられる予定だ。
 シアトルのテレビ局KOMOの取材に対し、那須さんは「これはヘイトクライムだ」と話している。「犯人は、ポケットに石を入れ、チャイナタウンでアジア人を襲う機会をうかがっていた。監視カメラの映像を見れば分かると思うが、犯人は、私と犯人の間にボーイフレンドが立っていたにもかかわらず、回り込んで私を先に殴った」
 警察の報告書によると、那須さんは犯人に殴打され意識を失った。一緒にいたポッフェンバーガーさんは頭を殴られて8針縫うけがを負った。
 「犯人は僕たちを殺そうとしたのだと思う。犯人は(靴下に入れた石で)ノリコを殴ってから僕を襲った。僕は頭を強く殴られたが、なんとか気絶せずにすんだ」。ポッフェンバーガーさんは襲撃されたときの様子をこのように語っている。また那須さんも、「衝撃を感じ、気が付くと地面に倒れていた。付けていたマスクの中に自分の血が溢れ、窒息しそうになっていた」と事件を振り返った。
 那須さんは、車を駐車しようとしているときに、犯人が自分を見ていることに気が付いた」という。「車から離れようとしたとき顔を殴られた。致命傷となるけがではなかったが、殴られて折れた歯は元には戻らない。また、医者からはもう前歯では食べられないと言われた。笑うこともできない」と心痛を語っている。
 警察は、2014年までニューヨークで救急救命士として働いていた41歳のショーン・ジェレミー・ホルディップを容疑者と特定した。
 この事件を受け、ジェイ・インスリー州知事はコメントを発表。「私はヘイトと人種差別に対して『ゼロ・トレランス・ポリシー』を持っている。ワシントン州および全米で増加しているアジア系に対するヘイトと暴力の行為に断固反対している」と表明した。さらに、この一年、州内でヘイトクラムが急増しているとし「ウイルスに対抗するワクチンはできたものの、人種差別はいまだに横行している。被害に遭った人たちは、支援と正当な対応を受けるべきである。そして罪を犯した者は、司法の下で相応の処罰を受けなければならない。もし被害に遭ったら、地元の警察に通報・報告してほしい」と語った。今後アジア系のコミュニティーメンバーらと連帯して、市民の安全と安心を優先し、ワシントン州から人種差別をなくすために全力を尽くすとしている。
 また、シアトル警察のエイドリアン・ディアス署長は、シアトル全域でヘイトクライムが増加していると声明を発表した。「チャイナタウン・インターナショナル・ディストリクトをはじめとする市内全域の住民やビジネスオーナー、コミュニティー団体からの報告を聞いている。特に、アジア系コミュニティーを標的とした犯罪の増加を危惧している。那須さんの事件の犯人はすでに逮捕しているが、ほかの事件の手掛かりも追い続けている」と述べた。
 那須さんへの支援金の送り先は—
 GoFundMe「Support Inglemoor HS Teacher Noriko Nasu」
 www.gofundme.com/f/support-inglemoor-hs-teacher-noriko-nasu
【訳=砂岡泉】

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